ニコンのズームレンズは1960年代のズーム比2倍のレンズから始まり、徐々により高倍率なズームへと進歩していきます。
1982年に産まれたズーム比2.7倍のこのレンズ、時はAF化前夜で広角化・小型化・高倍率ズーム化が求められる中、この構造では更なる広角化は無理と判断され、これ1代で終わってしまいます。
販売期間およそ2年という短命に終わったこのレンズ、どんな光を紡いでくれるのでしょうか。

まずは望遠端から、開放f/3.5にて。解像感は低くコントラストもあっさりめですが質の異なる被写体の境界が自然で、画面全体が似た傾向なのでまとまりが良いと感じます。周辺光量の減少も相まって儚げな感じをだせそうです。
しっとり女性ポートレートに使ってみたいと思いました。

135mm, f/3.5, ISO560, 1/160 sec.
Nikon Z6+FTZ

ということで2021年11月、コロナの感染者数が減り観客数を減らしてのライブが始まったので、櫻木ねこさんのライブにて実戦投入、上手側3列目から。やっぱりライブはいいねぇ。

こちらはRAWからLightroom Z6 人物プロファイルを適用、レタッチ無し。
やはりMFでピント合わせは厳しい、だいぶ前ピンになってしまいました。
今時のばっきばき描写ではないものの、フレアー気味がステージの空気感を演出してくれています。
レタッチで仕上げるのもありですが、レンズの味で出せると作為的な感じがしなくてまとまりますね。私の好みのしっとり系描写です。

135mm, f/3.5, ISO3600, 1/160 sec.
Nikon Z6+FTZ

望遠端をf/5.6で。全体が均一になりコントラストが向上して、細かな部分がしっかり描かれるように。四隅はまだ若干流れていますが、私レベルには十分。
やっぱり幸せ薄そうな感じは被写体のせい?

135mm, f/5.6, ISO560, 1/160 sec.
Nikon Z6+FTZ

2020年、新型コロナウイルスの影響で自粛していた飲食店が営業を再開し、賑わいを取り戻し始めた横浜・野毛。私は独りカメラを片手に練り歩くだけですが、みな楽しそう。

135mm, f/8, ISO12800, 1/60 sec.
Nikon Z6 + FTZ

夜9時を回り人がいなくなった横浜みなとみらい。船尾の装飾やリベットの上の塗装の質感が良い感じです。決して解像度が高く「カリカリ」の描写ではないのにこれが伝わってくるのは何故なのでしょうか。

135mm, f/8, ISO6400, 1/160 sec.
Nikon Z6 + FTZ

銅像と日本丸。マストやロープは思ったよりも柔らかく写っています。背景の点光源をみると縁取りはそれほど強くありませんし色のむらもありません。昔のズームレンズはボケが汚い、などと言われますが、このレンズについては収差の補正バランスが良いのかそういう傾向は見られませんね。
画面の角の点光源は流石に丸くありませんが、そんなの気にしない。

いろいろな被写体にレンズを向けてみましたが、今のところ軸上色収差は目立ったものはありませんでした。更に使い込んでみないとわかりませんが、いい感じです。

135mm, f/4, ISO12800, 1/100 sec.
Nikon Z6 + FTZ

50mmでの中近景、歪曲収差は大きめで、ちょっと目立ちます。絞るとコントラストが良くなり、かつ画面全体で均一に。これなら風景もいけますね。
やはり解像度の低さでくっきり感は得られないでしょうが、むしろ桜は春先のちょっと緩んだ空気感を含めて表現できるかも。来年の春が楽しみです。

50mm, f/11, ISO 400, 1/50sec.
Nikon Z6 + FTZ

そしてようやっとの桜、2022年4月。どうでしょうか。解像感不足でのっぺり…でも無く、けどちょいレトロな感じ。よく見るとフリンジが出ていますが正直ぱっと見はわかりません。周辺減光は結構ありますが、こういう構図だとむしろいい感じ。

135mm, f/3.5, ISO100, 1/500 sec.
Nikon Z6 + FTZ

横浜福富町の古いビルを見上げて。
このあたりは蔦に覆われているビルが多くてなんだろう、と思います。
ビルの窓のボケは2線ボケの傾向が出ていて、50mm側では柔らかなボケは期待できないかもしれません。

50mm, f/3.5開放, ISO100, 1/125sec.
Nikon Z6 + FTZ

フィルター径: 62mm, 絞り羽根: 7枚, レンズ構成: 13群16枚, 最短撮影距離: 1.3m, 質量: 700g

ニッコール千夜一夜物語 第61夜で取り上げられており「特異なレンズタイプ」で「今となっては珍品の部類」なんて言われてしまっていますが、こんな優しくて儚げな描写は今時のレンズにはない味なんではないでしょうか。この「ひげ」もなんかかっこいいし。

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